2025.07.01投資、運用 |
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企業型DCの導入は会社から従業員への一つのメッセージの形

目次
企業が「労働者を選ぶ側」から「労働者に選ばれる側」へのパラダイムシフト
企業が「労働者を選ぶ側」から「労働者に選ばれる側」へのパラダイムシフト
先進国の中でも急速な少子高齢化が進む日本において、かつて将来的な労働力不足が懸念される中、「人口が減少するが、人口減少によりサービスの需要量自体も減少するので供給問題は発生しない」という経済学者のもっともらしい見解がありました。その後、社会環境の変化や社会保障制度の見直し、時間外労働の上限規制等により、医療や介護、物流、建設といった分野で労働力が不足し、一部ではサービス供給が追い付かない事態が現実のものとなっています。
業界によっては慢性的に労働力が不足する中、企業が「労働者を選ぶ側」から「労働者に選ばれる側」へと立場が逆転するパラダイムシフトが起き、その動きは徐々に広がりつつあります。特に、大手企業と比較して知名度や安定度において劣後する中小企業においては、新卒採用が全く採れないといった状況が発生している企業も決して少なくありません。
賃金上昇で人材流出の危機に直面する中小企業
また、中途採用においては、新卒時よりも「給与」や「就業時間」、「福利厚生」といった条件がよりシビアに比較される状況があります。もちろん、転職の理由は仕事のやり甲斐やキャリアチェンジといったポジティブなものがほとんどだと思いますが、業務内容が同じだった場合、最終的に転職者の決め手となるのは、休日や休暇の日数、勤務時間、年収といった待遇面によるところが大きい※ようです。※株式会社ベクトル「転職の決め手に関するアンケート調査」より
さて、ここで意地悪な質問ですが、皆さんの会社は待遇面で他社より勝っていると言えるでしょうか?恐らく、そのように胸を張って言える会社は一部の業界大手や優良企業に限られてくるでしょう。特に企業規模に劣る中小規模の企業の場合、待遇面で大手企業と向こうを張るのが難しいことは、容易に想像できます。
エネルギー価格や原材料価格の高騰による物価上昇の中、大手企業を中心とした賃金上昇の波は、少しずつ企業規模の小さい企業にも波及してきているようです。しかしながら、相対的に価格転嫁力の弱い中小企業は、結果的に儲けが薄くなり、賃金に反映する余力に限りがあるため、賃金上昇力も大手と比較して小さくなっています。そのため、労働力不足が様々な業界、業種に広がりつつある昨今では、待遇面で劣る中小企業は以前にも増して人材流出の危機に直面していると言っても過言ではありません。
中小企業の強みは経営と現場従業員との距離感
では、待遇面で劣る中小企業は自社の優秀な人材が流出するのを、ただ指を咥えて見ている他ないのでしょうか?私はそうは思いません。大手企業にはない、中小企業だからこその強みを発揮することで、残ってほしい人材の流出を予防することができると考えます。
では、大企業と比較した場合の中小企業の強みとは何でしょうか?いくつかの強みが考えられますが、私はズバリ、経営者と従業員の距離の近さにあると考えます。フランスの思想家パスカルは著書パンセの冒頭で「人間は一本の葦にすぎない。自然の中でも一番弱いものだ。だが、人間は考える葦である。」と自然の中において、人間がちっぽけな存在であると同時に、自ら考えることのできる強さを表現しています。
これをビジネスに置き換えると、経営者一人でできることには限界があるため、会社という組織を作り、会社を前に進めるために方向性を考え、従業員に共有していると言えるでしょう。しかしながら、企業規模が大きくなることにより、直接的なコミュニケーションが困難になります。一方、中小規模の企業は、経営者と従業員の距離が物理的に近いために、経営者の考えを自分の言葉や態度で直接共有することができます。これこそが大企業にはできない、中小企業独自の大きな強みと言えます。
制度導入は間接的な従業員へのメッセージ手段
さて、この直接的なコミュニケーションですが、経営者の想いや目指すべき方向を言葉として表す方法が最も分かりやすいと思われますが、例えば表彰制度や報奨制度といった制度や仕組みを導入することで従業員に対して「どういった方向を目指している」のかメッセージを伝えることも可能です。
企業型DC(確定拠出年金)の導入もそのメッセージを伝える手段の一つです。企業型DCは、年金制度の土台である国民年金(1階部分)、サラリーマンが加入する厚生年金(2階部分)、さらにその上に位置する年金制度の3階部分にあたる私的年金の一つです。企業型DCは数ある私的年金制度の中でも、充実した税制優遇のおかげから企業で働く従業員の自分年金づくりの受け皿として注目されている制度になります。
従業員への心理的安心感を与える企業型DCの導入
この自分年金づくりのための企業型DCが自分の会社に導入されることを知った従業員はどのように感じるでしょうか?「社長(会社)が自分たちの将来のことを考えてくれているんだな。定年になるまでここで働いていいんだな。」という風に好意的に受け止められるのではないでしょうか?
従業員に対して、企業型DCの導入というメッセージを伝えることは、従業員の将来的な金銭不安の解消だけでなく、今の職場で働くことへの心理的不安の解消にも繋がっていくことでしょう。もちろん、ポジティブなメッセージを伝えることができるというだけで、長く働いてくれるかどうかは本人の生き方や働き方が影響してくると思います。ただ、その時に「従業員のことを考えてくれている」という会社のスタンスは、少なからず従業員の判断に影響を与えるでしょう。







