2017.12.01イデコ制度 |
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イデコ、2つのデメリットをどう考えるか
イデコ(iDeCo)は、正式名称を「個人型確定拠出年金」といいます。この制度は、「税制優遇を受けながら、じぶん年金づくりをすることができる」という点で、たいへん優れた仕組みです。
ですが、どんなものにも良い面と悪い面があるもので、イデコにもメリットばかりではなく「デメリット」があります。今回のコラムでは、そんなイデコのデメリットに焦点を当て、それをどのようにとらえればよいのか考えてみたいと思います。
イデコには、大きく分けて2つのデメリットがあります。1つ目は、60歳になるまでお金が引き出せないこと。2つ目は、制度を利用する際に費用がかかることです。
○デメリット(1)60歳まで引き出せない
これが、この制度の最大のネックと言えるでしょう。
イデコでは、死亡した場合や障害者となった場合などごく一部の例外を除いて、60歳になるまでお金を引き出すことができません。つみたてNISAや個人年金保険など、将来のためにお金を積み立てる仕組みは他にもありますが、それらと比べてもこれは非常に厳しいルールです。
なぜこんなルールがあるのか
なぜ、イデコにはこんなに厳しいルールがあるのでしょうか。それは、制度の利用目的を「老後」に限定するためです。イデコの税制は、つみたてNISAや個人年金保険と比べても非常に有利なものになっているため、ともすれば、税金対策にばかり利用されてしまいかねません。
「60歳まで引き出せない」という制約は、イデコを税金対策ではなく制度本来の趣旨である「老後資金をつくる制度」として利用してもらうためのものなのです。
イデコの税制は他の制度より有利
たとえば、イデコの他に「個人年金保険」という商品にも掛金(保険料)を所得控除できるという税制メリットがあります。しかし、個人年金保険では所得控除の上限額が年間「4万円(新制度の場合)」と定められているのに対して、イデコでは掛金の「全額」を所得控除できます。
所得控除による税金の軽減額は「所得控除額×税率」で計算できますから、所得控除できる金額が大きいほど、税金の軽減額も大きくなります。
イデコの掛金の上限額は人によって異なりますが、最大で年間81万6千円、最も少ない人でも年間14万4千円。その全額を所得控除できるわけですから、個人年金保険よりもかなり有利です。
また「つみたてNISA」の場合は、そもそも所得控除はできず、税制メリットは「運用収益が非課税になる」という点だけです。しかも、イデコでは口座内で何度でも売買することができますが、つみたてNISAの場合は一度売却すると口座の外に出てしまうため、非課税メリットはイデコよりも少ないと言えるでしょう。
「60歳まで引き出せない」というイデコのデメリットも、大きな税制優遇の代償と考えれば、納得できるのではないでしょうか。
そもそも本当にデメリットなのか
ところで、「60歳まで引き出せない」という制約は、本当にデメリットなのでしょうか。たしかに、イデコを単なる節税商品と考えるならば、そうでしょう。しかしイデコの一番大切な目的は、節税ではなく「じぶん年金をつくること」であるはずです。
そう考えると、この制約は逆に好都合とも考えられます。皆さんも経験があると思いますが、人間、使えるお金はついつい使ってしまうもの。せっかくコツコツ積み立てたじぶん年金も、うっかり途中で使ってしまっては台無しです。
60歳まで引き出せないという制約は、実はデメリットなどではなく、大切なお金を心の弱さから守る「防波堤」なのです。
○デメリット(2)費用がかかる
もう1つのデメリットは、制度を利用する際に一定の費用がかかることです。金額は利用する会社によって異なりますが、年間でおよそ2,000円から7,000円程度。しかもこの費用は、途中で積立をやめても継続してかかります。これも、つみたてNISAや個人年金保険にはないデメリットだと言われています。
なぜ費用がかかるのか
イデコを利用するときの窓口となっているのは当社のような民間企業ですが、制度全体の運営は「国民年金基金連合会(以下、国基連)」という団体が担っています。また、年金資産の管理は国基連から業務委託をされた信託銀行等が担っています。このため、それら関係機関に対しての費用がかかっています。
また、イデコは一種の年金制度であるため、掛金の拠出履歴や加入資格の有無、「○号被保険者」といった社会保険の属性区分など、通常の銀行口座や証券口座では扱わない様々な情報を確認し、継続的に管理していく必要があります。それらの業務にかかる費用として、当社でも一定の手数料をいただいています。
お金がかかるからこそ、続けられる
普通に考えると、費用がかかるのはデメリット以外の何ものでもありません。しかも、途中で掛金を止めても費用は継続してかかるのですから、なおさらです。しかし見方を変えてみると、これは「じぶん年金づくり」を助ける力にもなっています。
こんな状況を思い浮かべてみてください。
結婚してすぐにイデコに加入した人が、何年か経って「子どもの学費がかさむようになってきたから、いったんイデコの積立を止めようかな」という気持ちになったとします。これが無料のサービスであれば、おそらく簡単に止めてしまうことでしょう。
しかしイデコの場合、掛金の積立を途中で止めても手数料は(少し安くはなりますが)継続してかかります。となると、おそらく無料の場合とは違って「せっかく手数料を払っているんだから、少額でも積立を続けないともったいない」と考える人も多くなるのではないでしょうか。
例えるなら、会員制のスポーツジムなどで「せっかく年会費を払っているんだから、行かなきゃもったいない」というのと同じ感覚です。
人間の意志は弱い
皆さん、こんな経験はないでしょうか?
- ダイエットのためにカロリー制限をすると決意したけれど、誘惑に負けて「今日だけOK」と自分に言い訳をして食べてしまった。
- 今年こそ英語を勉強しようと年始に決意して教材を買ったけれど、結局1ページも開かずに1年が過ぎてしまった。
- 健康のため2日に1度は運動しようと決めたけれど、繁忙期や飲み会シーズンになるとどうしてもペースが維持できない。
いかがですか?
ほとんどの方は、何かしら身に覚えがあるのではないでしょうか。
どんなに良い取り組みも、実行できなければ効果はありません。とりわけ、じぶん年金づくりは何十年という長い年月がかかるものですから、「目的を達成するまで続けられるかどうか」が重要なポイントになります。
イデコの良さは「頑張らなくても続けられること」
ダイエットや英語の勉強なら、挫折してもまたやり直せばよいでしょう。しかし「じぶん年金づくり」はただでさえ何十年もかかる作業なのですから、そう何度もやり直せるものではありません。
「意志の力」という不確かなものに頼るのではなく、「人間の意志は弱い」ということを前提として、それでも続けられるような「仕組み」があること。これが、じぶん年金づくりには必要不可欠です。この点で、イデコは「頑張らなくても続けられる仕組み」が備わっている、非常に優れた制度と言えるでしょう。
まとめ
- 目先の損得や使い勝手よりも、ちゃんと「じぶん年金」が作れるかどうかを重視しよう。
- 一番のポイントは、目的を達成するまで続けることができるかどうか。
- 人間の意志は弱い。イデコの良さは「頑張らなくても続けられる」仕組みにある。